アイスクライミングの基本


記  高橋 敏夫


1.はじめに


 アイスクライミングにおいて留意すべき事は極めて多岐に亘るが、その中でも特に大切なのは「氷は脆く、壊れやすく、濡れて冷たく、刃物のように鋭い」ということをキチンと頭の中に入れておくことである。また氷は千差万別であるから、氷を良く観察し、その種類と特質を知ることが何にもまして大切なことと言える。したがってトップロープで練習するにしても、ただ漫然と登るだけでなく、「氷の色や形を良く見ながらピックを打ち、足で蹴り込んで、その違いをよく記憶する」 これが練習の基本である、と考えたい。
 水っぽい柔らかめの氷ならば、バイルも入りやすく、さほど強く蹴り込まなくともフットホールドが得られ、登りやすいが(逆に支点に不安があるということになるが・・・)硬く締まった氷の場合には1〜2ランクグレードが上に感じられるだろう。

1本の氷瀑でも下部、中間部、上部、落ち口と氷の顔は様々に変化する。この氷の顔に合わせた登り方が出来るようになるには、数多くの氷を経験し、情報を積み重ねていく以外にはないが、いずれにしても「氷をよく知る事は、クライミングの動作を覚える以上に「安全」に直結する。」ということを忘れてはならない。

これから述べる--特に登る--ことは平均斜度がほぼ80度位までの氷瀑を想定している。したがって90度以上の垂壁が10m以上続く場合(氷柱もしくは氷柱状になっている場合が多い)には例えばスポーツクライミングで、垂壁やオーバーハングを登るためのムーブが必要になるかもしれないが、ここでは基本的な氷瀑登攀についてのみ触れることにしたい。

2.氷を登る


(a)確実なバイルを打ち込む

肩、肘、手首、バイルのピックを一直線にし、ヘッドを走らせ打ち込む。ヘッドを走らせるためには遠心力を活かすことがポイント。


1)肘に多少余裕をもたせ、肘を中心に手首のスナップを利かせながらピックが氷に刺る瞬間にグリップを握り込む意識で、 (小指→薬指→中指の順に強くの感じで)

2)この際極めて重要な役割を果すのがリストバンドで、 リストバンドで手首の動きが止められる事により、ヘッドが早く強く走ってくる訳だ。したがってリストバンドの長さの調整に特に注意を払う必要がある。むろん手袋をはめて・・・。

氷を良く見て、出来るだけ:氷の厚い凹面をねらう。

この際シャフトの間に出っ張ったコブを入れないように。こぶがテコの役割を果たしてしまう。

肩の延長上か少し外側の、出来るだけ高い、且つ体の中心に近い位置が基本。

氷の状態にもよるが、上体の中心に近い高い位置にバイルが打ち込めれば、次の動作が業になると同時に、万一一方のバイルがはずれた場合でも、体が横に振られにくい。
なお左右のバイルの間隔は肩幅より若干広い ---上体を抱き込める ---程度が最も安定する。

 
ピックが確実に打ち込まれているか否かは、体で覚える以外ないが、打ち込んだ後、下に引張って確認する事が大切になる。打ち込む毎に引いて効きを確認する事は、自分の打ったバイルの効き加減を判断する力を養うと同時に、こうした落着きも大切な要素である。


(b)確実なフットホールドを作る。<ダブルアックスの決め手は足! ! フロントポイント>


 靴のカカトを下げ気味に、氷の面に直角に蹴り込む

カカトを上げすぎるとツアッケの曲り部分、時に靴のつま先が氷面に当ってしまい、氷を砕く結果しか得られない。特に縦走兼用アイゼンの場合に注意が必要。
かかと自体を蹴り込む意識を持つと良い
 

蹴り込みはヒザを孤の中心にして回転運動をする気持で


*アイゼンの効き具合は、バイルより感じにくい(足は手よりも鈍感)。従って氷の状態をよく見てよいスタンスを拾う事。一歩一歩確認する気持で丁寧に。

*打ち込んだバイルのリストにぶら下がり、懐を広くすることでスタンスが良く見えるように。

この感覚を覚えるには「クライムダウン」を繰り返し練習すると良い。ただこの練習はあくまで登りの感覚を養うためのもので、クライムダウンそのもののの練習ではないので念のため。身体の真上に打ったバイルリストに完全にぶら下がる→一度座り込む→氷を良く見て細かくスタンスを拾う→膝がやや伸びた状態まで降りる→少し伸び上がって片方のバイルを抜く→しゃがみ込んでバイルをかける・・・この繰り返し。

左右の手首の位置が肩に上がるまで、膝を柔らかくし、両足を2歩くらい上げ、強く蹴り込み足場を確保する。

この場合もバイルの打ち込み同様、凹面を選ぶこと。ただしあまり登りすぎると苦しい体勢になるので注意。

 靴のカカトを下げ気味にして「安定姿勢」をとり、リステングを図る。

この時、ヒザをかるく伸しアキレス腱を伸ばす意識を持つとよい。 こうすると2番目のツアッケも使え安定感が増す。

安定姿勢について
 1)ピックの位置、足の位置は同じ高さが原則。 支点が四箇所に均等に分散されるため、最も安定した体勢と言える。安定した体勢がとれれば、次のバイルを余裕をもって良い箇所に打ち込めるし、且つ疲れない。

 2)バイルは握りを弱め、リストバンドに手首をかけた状態で下に引き続ける。バイルは一定の力で引き続ければ抜けにくい。両脇をしめる事がポイント。


(C)バイルを抜くときの注意点

 抜くという動作は壁から後ろに向けて力を加える動作、氷から自らを引き離す動作であり、力なので十分な注意が必要だ。小刻みに揺らして、ピックを緩め、小さな力で抜けるようにしてから抜き取るようにしたい。

※セミチューブは横に揺らす。普通のピックは前後に揺らして抜く。

3.確保・リードについて


アイスクライミングでは不安定な場所、不確実な支点での確保になり易い。従って支点の数を出来るだけ多くし、ボディ・ビレーは避けるようにしたい。
(a)ビレイヤーの位置は落氷を避けるため、ルートの左右いずれかにはずし、氷壁から離れた箇所を選ぶ。上からは常に落氷があるぞ! !

(b)登る前には登攀具の点検を忘れずに。

*登攀ルートを良く観察し、事前に支点をとる位置を想定しておく。スナーク、スクリューの本数は?終了点に立木があるとは限らない、中間支点プラス最低2本は必要。

*フィフィはすぐに取り出せるか、ヌンチャク、カラビナ、スリングの本数は足りるか。

(c)攀りはじめのフラット部分に支点を作り、ランニングをとる。
  トップ墜落のロープのはね上がりを防ぎ、ショックを柔らげる
(d)グランド・フォールを避けるため登り始めは特にまめにビレイをとる。

※アイゼンを付けてのグランド・フォールは短くとも非常に危険! !

(e)足場の確保 --- 傾斜の緩い斜面で支点を作る際には、足を横にして置ける=リステング出来る ようブレード部分でカッテングする。

※ブレードはこのほかにも氷を削る必要が出てくるので1本は持ちたい。

(f)体の中心の真上に強くピックを打ち込み、フィフィ等により仮確保体勢をとる。 ピックが真上に打てない場合には、打ち込んだピックの真下に体が来るよう移動させる事を忘れてはならない。
(g)スナーグ・スクリューを打ち込む箇所の氷は、安定した氷面に達する迄充分に削り落とす。また幅広く平らに削っておくと、セカンドがクリーニングする時楽。抜くのは打ち込む以上に労力のいる作業なのだ。
(h)スナーグは氷が割れないよう、叉落さない為にも、始めは柔かくやさしく。1/3位入った処で、シュリンゲでインクノット結びを施し、確保の補強とし、最後まで打ち込む。

※氷が薄い楊合 はスナーグ、スクリュー類が根元迄入らないので、タイオフにする。

※打ち込んでいて急に入らなくなったら岩に届いていると思え! !

(i)ピッチを切り、セカンドを確保する

※安定した箇所に最低2本以上のスナーク類を打ち込み流動分散方式で自己確保を行う。
※セカンド確保用にハ一ケンをもう1本打ち足す。ザイルの出る方向を決めるためでもある。

※登攀の途中でピッチを切り、いわゆる「ツルベ」で登る場合、確保の場所は セカンドの登攀ルートを想定して左右いずれかに避ける。

(j)その他

スナーグ・スクリューを打ち込むときの留意点

※横に並べて打つ場合・・・間隔は2×(深さ×3)以上にすること。氷がはがれる場合、その横幅は打ち込んだ長さの約3倍との実験データがある。最低2.5〜3mのスリングを忘れずに。

※特に重要な場所、例えば必ず悪い落ち口の手前などでやむを得ずタイオフになる場合には、縦に2本打ち、スリングで連結して補強すると良い。

トップとビレイヤーは息を合わせる

既成のルートでなく、常に自分たちでルートを作っていく訳だから。トップは動作を起こすときには必ず声をかけ、ビレイヤーもこれに答えるようにしたい。「クリップ」「動くぞ」など。

懸垂下降

通常はロープダウンするときに両端を結ぶが、氷の場合は途中で引き上げる必要があるとき、結び目がつららに引っかかってしまう恐れがあるため、結ばずに一本づつ流すことが多い。下降に当たっては「すっぽぬけ」がないように。


4.クライミング・ギア、装備について


ギア類は経験を積み、自分であれこれ工夫して、使いやすい形にしていくのが一番だが、気付いたことを書いてみたい。


(a)リストバンド

「宮崎ホイホイ」のような優れ物もあるが、いずれにしても手首の出し入れがやり易く且締め易くすることが肝要。 例えばマジックテープ付きのリストバンドは良く締まるが反対に片手でははずせない。やはり、手首をねじって締める形がよい。シャフトの中間部分でゴム、マジックテープで止めておけばよい。(右回しか、左回しか、自分で決めておく。)

※前に述べたが、長さの調整については重要なので繰り返し強調しておきたい。


(b)フィフィ


 仮固定に使うが収納が難しいので私は図のようにしている。
仮確保のためにバイルにフィフィを掛けるわけだが、バイルの形状、リストバンドの付け方、傾斜の強弱により掛ける位置に注意すること。バイルの石突きがテコになり、ピックがはずれないよう、ピックが常に真下に引かれるようにしたい。


(c)「ヤスリ」の携帯を忘れずに。

・・・いわずもがなピック、アイゼンを研ぐためです。

(d)スクリューにあらかじめテープスリング+カラビナをセットしておく。

注意としてはタイオフの形なのでテープの幅だけ入りが浅くなる。また抜くときはテープを上に引きながら回すこと。

(e)替え手袋・目出帽・ヘルメットは必ず携帯する。

※アイスクライミングで一番傷付き易い箇所は、手・指 --- 冷え+リストバンドの締め付けで血行が悪くなる。 --- →手袋は質の良い、使いやすい物を。

※ピックで砕いた氷片から顔を守る --- →顔を覆う目出帽タイプが良い。

※アイスクライミングに落氷はつきもの→ヘルメット、これが無ければ登れません! !


(f)引っかけ棒

登攀中スクリュー等が足りなくなってしまったとき、何らかの事情で下降しなければならない時など、緊急避難的に「氷の左右からスクリューで穴をあけ、スリングを通して支点にする」ことがあります。この時、一方の穴から入れたスリングを引き出すのに針金製の棒が便利です。実験してみましたが、氷は7センチ位あれば下に引き、衝撃を加えなければ壊れる心配はない。

(g)最後に

アイスクライミングのギアは、安全で、使いやすく、スピーディーに処理できる物が必要です。手袋を付けた手はゴリラ並に不器用です。シンプルで応用範囲の広い物を買うなり、作るなりしましょう。



以上


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