実戦 沢登りの確保技術



【記】古野 寛

日和田山(東京近郊のゲレンデ)での岩トレから沢に入る時、岩トレでやった確保技術はいろんな応用問題となって場面場面に現れる。あまり本に書かれてないことも多い。そんな場面のいくつかを想定して確保技術について考えてみたい。

1.ボディービレーとダイレクトビレー

日和田山で他の人達が確保しているのを見ると殆どがダイレクトビレーである。つまり岩の上で支点に流動分散でシュリンゲをつけ、そのカラビナにエイトカンやATCをつけてセカンドを確保している。もちろんセルフビレイを取った上で。我々もトップロープでは立木にダイレクトビレイをしている。岩の上でボディビレイをしていると怪訝そうな顔で見ている人もいる。はたしてどちらが好ましいのか?
二つの方法を比べてみよう。ボディービレイは、

1)ビレイヤーの身体で衝撃を一部吸収するので墜落者や支点の衝撃を緩めることができる。特にトップの確保には有効。
2)同じ理屈でビレイヤー側の支点がしっかりしたものが取れない場合に使うと効果的と言える。
といった長所を持っている。しかしながら短所としては、

1)墜落のショックが大きかったり、足場がしっかりしていないとビレイヤーが引き込まれてしまう。また支点とビレイヤーの位置、墜落方向が直線上にないと振られてしまう事になる。
2)墜落した後、救助に向かうとき、プルージックでのザイルの固定が必要となり手数がかかる。
3)身体の自由度が少ないのでザイルを流しにくい。
といったものがある。

これらのことを考えると次のように言える。
「ボディービレーは支点が不安で、かつ足場がしっかりしている時
 に使うと有効だが、その分しっかりした技術が必要となる。」
トップの確保については衝撃から考えてボディービレイがベターと思われ、セカンド以降の確保についてもボディービレイをベースとしながらもしっかりした立木があるときで足場が悪い所などはダイレクトビレイも活用するのが良いと思われる。

ダイレクトビレイではエイトカンを使うのが普通である。(沢ではシングルロープが殆どなのでエイトカンでの欠点は出ない)ATCでは止めるための摩擦が少なく、危険である。

初心者はしっかりした支点を探し、ダイレクトビレイをした方が安全といえる。もちろんいつもしっかりした支点があるとは限らないのでボディビレイの練習は必要。練習にはザイルを長く使えるトップロープでやると良いと思う。
墜落した場合は、エイトカンの仮固定でザイルを先ず固定して救助の方法を考える。

2.立木への支点の取り方

沢では立木に支点を求めることが多い。立木への支点を取るときの注意を列記すると次のようになる。
1)もちろん枯れ木でなく、丈夫な太い生木を選ぶ。
2)なるべく地面に近いところにシュリンゲをかける。
3)出来るだけ複数の木から流動分散で取る。複数の木はあまり離れない方がシュリンゲの強度としては良い。岩や地面の強度が心配な場合は離れたところから長いシュリンゲで取ると良い。シュリンゲ不足や近くに立木がなくて流動分散出来ないときは、こだわらず出来るだけ複数の立木、支点から取っておく。
4)シュリンゲの強度を上げるには複数回巻き付け、引き出し側をまっすぐにする。もちろん抜ける恐れのある場合は「しごく」ように角度をつける。
5)シュリンゲの本数が乏しい場合には8の字結び(ハーネスにつけるやり方)やブーリンでメインザイルを直接結ぶ(流動分散はやりにくい)。この時自分のハーネスに結んだザイルはそのままなのでダブル結びをする。
6)太い木にシュリンゲやフィックスザイルを結ぶ場合は複数回巻き、さらに結び目を木から離した方がザイルの強度が上がる。
7)笹や竹のように滑りやすいものにはプルージックのように何回か巻き付けて絞る。
8)立木が遠くにしかない場合、一度トップロープ風にカラビナをかけて位置を決めてから再び支点に戻って固定する。ボディービレイの場合インクノットでハーネスに固定しても良いが、墜落時に振られたり、宙づりになる可能性もあるので支点と確保点、墜落方向が一直線になるようにする必要がある。

3.立木以外の支点

もちろん残置のハーケンやボルトがあればチェックした上で使うことになるがそれもない場合にはいろいろ知恵を絞る。
1)ハーケンを打てるリスがあればハーケンを打つ。
2)大石、場合によっては水中のものも探す。
3)岩の突起、岩角に注意、ただし都合よくあることは少ない。
4)大きい岩の隙間に、流木、ハンマー、バイルなどでつっかい棒にする。ナッツがあれば使う。
5)太い流木、動かないことを確認して。
6)ザイルにこぶを作って岩の隙間に。あまりやりたくないが。
7)雪渓では雪山の技術を。
  枝を何本か束ねて埋める。雪キノコを作るときは枝を5〜8箇所円周面に立てると丈夫になる。
8)地面にバイルを打ち込んで上に乗る。太すぎてシュリンゲを巻けない流木にバイルを打ち込んで使うこともある。

3-1.ハーケンへのビレイ方法

沢登りでは軽量化のためヌンチャク(両方にカラビナのついたシュリンゲ)を使わないことが多い。この場合シュリンゲをハーケンの穴に通してタイオフするとシュリンゲが切れるおそれがある。折り返して使った方が安心だ。あるいは巻き付けるような処理も考えられる。いずれにしてもハーケンへのシュリンゲの取り付けは慎重に。この図では右の方が良い。

4.多人数パーティーの確保

岩登りなどで2人でパーティーを組む場合は、トップがセカンドを確保した後、セカンドがそのまま次のピッチをリードするという、いわゆる「つるべ」が効率が良い。
沢登りはもう少し人数が多いことがあり、セカンドを確保したあとザイルを投げ降ろしてサードが登るスタイルが普通である。しかし、こうした方法を採らない場合がいくつかある。

1)傾斜が緩い場合はザイルを固定して自分のハーネスに付けたカラビナをザイルに通して登る。この時途中に何ヶ所かランニングビレイを取っておき、ここでカラビナを掛け替えて登る。プルージックは効かないことが多く、事故もあるので使わない事。
ユマールがあればベストだが8mmや9mmのザイルではザイルが切れる恐れがあるので10.5mm以上のザイルと併用する必要があり、沢では一般的でない。
 その意味で良いのは「マイクロアッセンダー」軽いのでパーティーに1個持っていくとスピーディーに行動できる。

2)立木などが多くてザイルが投げられない場合はザイルの途中に8の字結びでハーネスにつけて登り、末端は下の人が持っていて登った後に引き下ろす。ザイルの長さが足りない場合は2本つないで使う。引き下ろすときは8の字結びはほどいた方が岩などに引っかからない。
この方法は瀞を泳ぐ場合にもザックをザイルに結んで引っ張るときに有効でありザックピストンと言われている。。
3)トラバースの確保・・・その1
トラバースの場合は1)の状況と似ている。セカンドは,普通はランニングビレイを
回収するのであるがこの場合は残して置くこと。またトップは自分のためだけでなく後続のために多めにランニングビレイを取ること。カラビナ通しで登る場合はラストは通常の確保となるので初心者をラストにすることも一理ある。(ザイルのハーネスへのセットなどが確実に出来る前提で)
下に降ろせない場所のトラバースの場合は墜落のあと自己脱出で登り返しとなるのでシュリンゲ2本は必ず携帯する必要がある。
4)トラバースの確保・・・その2
トラバースは確保といっても落ちたときの処理が難しいのでイヤラシイし、安心感が無い。場所によってはもう少し楽な方法が採れる場合がある。それは高いところに丈夫な立木等があり、まずそこにザイルを投げ掛けてトップロープのようにする。降りてからトラバースをすると失敗しても大きなショックは無い。短いけど難しい、というルートに良い。
これは「振り子トラバース」と言われている。ザイルの投げ返しが難しい場合は補助のザイルを引っ張っていき、その末端はフォロワーが持っていれば戻すのは楽である。

5.渡渉の確保

沢登りで恐いのは増水時の渡渉である。確保もなかなか難しい。足を取られて引っ張られると余計に溺れる、というのが難しいポイント。したがってトップの確保は下流で岸に引き寄せるというのが基本となっている。(これらについては沢登りの本の中でも述べられている。)
この時は引き寄せるスピードがポイントとなるのでエイトカンなどは使わず、肩がらみで確保する。
浦和浪漫の高桑氏によると上流からのフィックスザイルに振り子懸垂のように掴まって渡るのが良いと言う。実験してみたが確かに安心だ。足を上流に出し気味にすると良い。
セカンド以降はフィックスロープにカラビナ通しで渡るがフィクスロープは高い位置に張った方が安全と思われる。
これをさらに洗練したものに「末端交換三角法」といわれるものがある。(渓流97夏号)。
先頭は上流からのザイルに掴まりそのザイルの下流部をビレイヤーが持つ、中間者はフィックスで渡り、ラストを渡す前にザイルのつなぎ目を入れ替えるのである。入れ替えた後はトップの渡渉と同じようにしてラストを渡す。かなり確実な方法である。

6.セルフビレイ

「セルフビレイはメインザイルで取ること」と教科書には書いてある。とはいうもののこれはボディビレイの時の話でともかくどこでもセルフビレイをこまめに取る習慣をつけよう。そのためにハーネスに短いシュリンゲとカラビナをつけておくと良い(篠原さんの言)。ザイルのセット、回収、懸垂下降の直前、いろんな場合にも先ずセルフビレイを取ってから、最後にビレイを解除。
余談だがトップヘビーのザックを背負っている場合、ハーネスのザイルの出口をあまり下げると、落ちたとき「逆さつり」になってしまうので十分注意のこと。

7.落とし物はありませんか?

「カラカラカラ・・・」ゲレンデでもエイトカンやカラビナを落とす人がいる。沢でやたらと落とすとその先の確保に支障を来すし、落としたときのケガも心配である。
エイトカンについては大きい輪の方をハーネスのカラビナにつけ、ザイルにセットしてからカラビナをはずすこと。
ビレイ解除の時も同じです。ヌンチャクも普通はまず支点に掛けてからザイルにを通すが、安全から言えば先にヌンチャクをザイルにつけて支点に掛けた方が落とす心配はない。場合によってはすべてのヌンチャクの片側を自分のザイルにあらかじめ通しておくこともある。これはランニングビレイの回収も同じで、先に支点のカラビナをはずし、ラックに掛けてからザイル側をはずす。面倒ならザイル側はそのままでも良い。
シュリンゲをハーケンに通すときも口にくわえてやれば安全性は増える。
ハーケンの打ち込み、回収もハーケンを落としやすい状況の一つと言える。方法の一つとしてハーケン一つ一つに細いロープでリング状の「輪っか」を作っておき、これをカラビナに掛けておけばはずれても落ちない。あるいは私は細いシュリンゲにつけた鉄製の小さなカラビナを携帯してこのカラビナをハーケンに取り付けて使っている。問題はハンマーで「輪っか」やカラビナを叩いてしまわないように注意すること。
カラビナ、ハーケン、エイトカン、こういったもののセルフビレイを取ることが落とさない秘訣(当たり前だが)と言える。
ちなみにエイトカンを落としたときのために「半マスト」での下降、確保をマスターしておくこと。
また、沢ではザイルやシュリンゲを流すことがある。特に水流の中にザイルを浸けると流れの力は強い。ザイルの接続や、回収などの時、必ずザイルの一方の末端を誰かが持っていることが必要。


8.単独行の確保

志水哲也さんの「大いなる山、おおいなる谷」はただただ感心するだけだが、スゴイと思うのは殆ど単独で沢を登っている点である。単独での確保には「Z法」と言われる登り方で普通の登り方の2倍の距離を登ることになる。
1)まず下の支点にザイルの一端を固定する。
2)ザイルをさばいておく。
3)シュリンゲを固定した近くにプルージックでつける。プルージックの代わりに良い確保器があるのかもしれない。ユマールではダメ。
4)ランニングビレイを取りながらプルージックを引き上げる。この時当然プルージックはランニングビレイの先にある。プルージックが効かないとヤバイ事になる。効きをを確かめながら引き上げる。
5)1ピッチはザイルの半分以下にする方が良い。そのためにはマーキングを使うか、両端を固定する。(両端固定はコワイと思うが)
6)テラスでザイルを固定する。
7)残りのザイルを引き上げ、懸垂下降で降りる。どうしてもザイルが足りないときは登ってきたザイルを使うことになるが、ランニングビレイを取っているので降りにくい。
8)下に降りたら末端の固定をはずす。
9)再びプルージックでランニングビレイを回収しながら登り返す。この時はユマールなどの登行器を使える。
10)再びテラスに着いたらまた末端を固定して繰り返す。
「Z法」というより「N法」と言った方がイメージが合う。両方向でストップ出来るプルージックの特徴を利用している。トラバース気味に登るときなど難しいし、落ちたらどうしよう、という不安が大きく出来たらやりたくない。でもパーティーとはぐれて1人になってしまった時など知っていると心強いのではないかと思う。

9.懸垂下降

懸垂下降は沢では結構よく使う。いくつか注意点をあげる。
1)ともかく信頼できる立木をさがす。命を木一本に託すのだから。できれば木の皮が滑らかな方がザイルが痛まなくて好ましい。
2)下にヤブがなく沢床が見える場所が良い。見えない場合は斜面があまりきつくない場合にかぎりザイルを引きずって降りるが、登り返しを覚悟する。
3)ゴルジュに降りるときなど、その先突破できるか心配。登り返しもあり得るのでザイルは回収せずにおき、行けそうなら回収する。
4)ヤブがあったり、岩がでこぼこしている場所で、あまり高度がなければザイルの末端は結ばない方が引っかかりを防げる。
5)ザイルはセンターで二つに分けて束ねておくと懸垂の立木に早くセット出来る。
6)残置シュリンゲを使う場合のザイルの回収は、極めてゆっくりと行うこと、ザイル同士の摩擦ですぐに切れてしまう。
7)シュリンゲを残置するのが嫌なとき、余ったザイルや細引きでシュリンゲを下から回収することも可能である。ただ上手くいかないと登り返しになるので試してからやろう。


 

えらそうに書いてしまったが、思い違いやその他ご意見ありましたら教えて下さい。


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